民泊システムをAPIサービスの1つとして全体設計
わかりやすく、見栄えがし、
データ自体が価値をもつ
日本アイ・ビー・エム システムズ・エンジニアリング(以下、ISE)は、昨年11月に開催された第28回iSUC別府大会で「ISE Showroom」と呼ぶ体験型展示コーナーを設け、そのなかでHyperledger Fabric v0.6(以下、Fabric)を用いた「民泊システム」のデモを行った。
同システムは、元は2017年4月開催の「ISEテクニカル・コンファレンス」向けに開発されたもの。2016年12月に検討を開始し、2017年1?3月に「業務のかたわらメンバー5名で実装を進めた」(平野聡美氏、クラウド・ソリューション クラウド・イノベーション)システムである。
企画を担当した高橋辰徳氏(コグニティブ・ソリューション 先進インダストリー・ソリューション担当)は、「ショール?ムなので、イメージがしやすく、かつ見栄えがし、ブロックチェーンなのでデータ自体が価値をもつユースケースを検討しました」と狙いを話す。
開発したのは、宿泊の予約が成立すると、部屋(家)の鍵を開けるための電子鍵データがネットワーク越しに発行(配信)され、ユーザーはそれを使って解錠し部屋(家)に入るというシステムである。
部屋を解錠する電子鍵を
予約成立の都度、生成し配信
処理の流れを見てみよう。スマートフォンの「民泊システム」アプリにID/パスワードを入れて起動すると初期画面が表示される(図表1)。このときID/パスワードは、Fabricの認証局で認証を受けている。次に、行先・期間・人数を入力して検索を行うと、宿泊可能な宿がマップ上に表示され(図表2)、その1つを選択して詳細画面へ進み「予約」ボタンを押すと、支払い画面へと切り替わる(図表3)。そして支払が完了すると、予約番号と解錠のための鍵データが発行される(図表4)。次に、予約した部屋(家)に到着したユーザーは、スマートフォンに着信した解錠・施錠画面(図表5)をドアノブ(図表6)にかざして「解錠」ボタンを押すと、部屋の鍵が開く、というシステムである(図表7)。
【図表1】民泊システムの初期画面
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【図表2】宿を検索中
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【図表3】支払い
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【図表4】支払いが完了し予約番号と鍵データが発行
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【図表5】右下の解錠ボタンを押すとドアが解錠される
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【図表6】Qrio社のSmart Lock
【図表7】民泊に関わるステークホルダー
処理の流れ自体は、一般的なホテル予約システムなどと同じだが、処理のビジネスロジックをFabricのチェーンコードで記述し、宿情報・契約情報・電子鍵データを分散台帳で管理する点が異っている。
その違いは、たとえば、ユーザーから予約の申し込みがあって予約が成立すると、Fabricでは仕組みとしてすべてのPeer(今回の民泊システムでは4つ=図表8)に予約データを書き込み、すべてのPeerで同じ内容が書きこまれたことを確認した後に、次の処理へと進む点である。
【図表8】Hyperledger Fabricを利用したデモシステムの概要
この仕組みを使うことにより、センター的に配置される台帳(データベース)が不要になり、センター的な台帳と比べて低コストでデータの保管・管理が可能になる。また、ブロックチェーンの仕組みにより、契約データの改竄を防止できる。
さらに、一般的な民泊システムの場合、物理的な鍵の受け渡しに手間と時間がかかり、悪意をもった利用者による鍵の複製などセキュリティ面で不安を抱えるが、今回のFabricベースの民泊システムならば、契約ごとに新しい電子鍵が生成され、配信という形でごく安価に、かつ確実に受け渡しが行える。電子的な利用期間の設定によりセキュリティも担保できる点も工夫されている。
電子鍵のデバイスには、Qrio社の家庭向け「Qrio Smart Lock」(図表6)を採用した。アプリをスマートフォンにインストールしSmart Lockとペアリングしておくと、スマートフォンをかざすだけで施錠・解錠できる製品だ。デモ・システムはその仕組みを応用した。
ブロックチェーンも
APIサービスの1つとして提供
今回の民泊システムは、図表9の構想のもとに開発された。複数(n社)の宿提供者と複数(n社)の宿仲介業者で構成される“宿泊予約コンソーシアム”があり、プラットフォーマーがFabricベースの「民泊システム」を提供している。 「宿泊者はサイトにアクセスし民泊システムを利用しますが、この民泊システムがFabricで構築されているわけですが、システム全体から見るとAPI経由で提供されるサービスの1つです。APIサービスとしてはこのほかレンタカーサービスや外国人向けの翻訳機能なども考えられ、民泊の予約と一緒にレンタカーも予約したい場合、民泊システム上で呼び出して利用可能です」と、高橋氏は説明する。
【図表9】民泊システムの処理の流れ
実装作業を行った平野氏は、「民泊システムはチェーンコードさえ作ってしまえば一般のデータベースシステムと変わりませんが、コンセンサスを取る必要があるので、ゆっくりした処理を考慮する必要がありました。今回は、Db2のスキルをもつ技術者がチェーンコードを開発しましたが、スキルセットの違いに、多少戸惑っていました」と感想を述べる。
同社では、今年の「ISEテクニカル・コンファレンス」でも、ブロックチェーンのデモを行う予定。高橋氏は「Fabricの最新の成果を取り入れて、面白いデモを作る計画です」と抱負を語る。
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高橋 辰徳氏
日本アイ・ビーエム システムズ・エンジニアリング株式会社
コグニティブ・ソリューション
先進インダストリー・ソリューション
担当
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平野 聡美氏
日本アイ・ビーエム システムズ・エンジニアリング株式会社
クラウド・ソリューション
クラウド・イノベーション
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IS magazine No.18(2018年1月)掲載