「Visual Recognition 」と
画像処理ライブラリを組み合わせる
「検品支援ソリューション」は、撮影した画像から完成品などの良・不良を判別する。必要なのはWatsonの画像認識APIである「Visual Recognition」(以下、VR)。これに画像処理ライブラリを用いた事前処理を組み合わせて判定することにより、高い精度で検品作業を支援する。
「検品支援ソリューション」が対象にするのは、人が目視で行っている検品作業である。これまで製造プロセスにおける目視検査は、高度なスキルやノウハウを有する技術者を必要としていた。また大量生産の工場ラインでは、長時間にわたり均一な判断が求められる。人手不足やスキル継承は、どの製造業でも大きな課題となっている。
現在は工場によって、自動検品システムなどを導入し、人手作業に頼らず機械的に検品しているケースも増えている。しかしこれは重量や長さなど、センシングできることが条件となる。傷や汚れ、欠損、異物の混入など、センサーで検知できない不良には対応できない。それらの検品作業は人手に頼らざるを得ず、働き方改革の時代にあって、業務工数をなかなか削減できないプロセスとなる。
そこで「検品支援ソリューション」は、人手による目視作業の一部をWatsonで自動化し、検品業務の効率化を図る狙いがある。
基本的な仕組みは、以下のようになる。
まず製造現場の検査工程にカメラを設置し、流れてくる完成品を動画もしくは連続する静止画像で撮影する。
撮影した画像データは、Linux boxのようなアプリケーション組み込み用ボックスなどによる事前処理のあとに、クラウド上にあるIBMのIoT基盤である「Watson IoT Platform」にアップロードし、クラウド上のアプリケーションからVRを呼び出して、分類処理を行う(カメラからのデータ送信は、状況に応じて複数の方法が考えられる)。
対象製品を検品するプロセスは、2段階に分けられる。
第1フェーズは事前処理であり、「OpenCV」のようなオープンソースの画像処理ライブラリを呼び出して画像2値化やクロッピングなどの処理を実行し、1次判定を行う。クロッピングとは、必要な部分だけを切り抜き、不要な画像を削除すること。たとえば撮影した画像データから検品の対象物だけをうまく切り出すことを意味する。
つまりVRが分類すべき画像かどうかを判定し、検品対象となる画像データを整える。
工場内の撮影は、カメラの設置状況(照明や角度、ラインのスピードなど)により、検品の対象物をうまく撮影できないことも多い。現在のVRは、顔認識機能はサポートしているものの、物体検出機能はまだ搭載していないので、第1フェーズの事前処理が非常に重要になる。正確に対象を捉えた高品質の画像データを学習やインプットに使うほど、判定の精度が高まるからだ。
続く第2フェーズでは、VRを使って良品か不良品かを分類する。これが2次判定である。
最終的にはVRが検出した欠陥状況を人が確認することになるが、「検品支援ソリューション」を活用すれば、確実に目視検査工数の削減や誤検出の最小化を実現できる。
検品画像をうまく分類できるか
PoCで段階的に検証
このソリューションも「フィールド・テクニカル・アドバイザー」と同様、導入を検討する企業に要件をヒアリングし、APIとアプリケーション開発を組み合わせて、それらの要件を実現する。日本でもPoCで検証を進めるユーザーが、徐々に増えてきている。
VRは多岐にわたる業務に利用が可能で、広範な領域で利用が検討されている。ただし、検品対象となる画像をVRでうまく分類できるかどうかは、実際にやってみないとわからないケースが多いようだ。
「工業製品かどうか、サイズや色調、固体か液体かなど、製品の特性に応じて分類しやすい傾向があるかどうかは、実際に試してみないと判断できないことが多くあります。そこで当社ではPoCにより、アイデアやコンセプトが具現化できそうか検証することをお勧めしています。トライアルでどのぐらいの画像認識精度が得られるかを確認し、本開発に進むかどうかを判断しようと考えるお客様は多いです。最初は実際のラインによく似たテスト環境でトライし、結果を確認してから、次は本番に近い環境で再度トライし、結果を見る。よい結果を得られないなら、どうすれば精度を上げられるかを検討し、PoCを段階的に進めていきます」と語るのは、W&CP事業部 ワトソンソリューション担当の田中孝氏である。
画像により学習するので、複雑な検出ロジックの設計や開発は不要である。事前学習させておく必要はあるが、VRは非常にトレーニングしやすく、一定量の画像データを集め、その正・誤、良・不良を学習させていくと、簡単に分類器を作成できるのが特徴である。
検品には一定のノウハウが必要であるが、良品と不良品の画像を並べていくと、そこには必ずパターンが見えてくる。それをVRの機械学習モデルで増幅し、分類器を作成すれば、ベテラン検査員のノウハウをシステム化することが可能になりそうだ。
[IS magazine No.21(2018年9月)掲載]