拠点が分散していても
リスクを一目で把握できる
イグアスが2019年6月に発売した「Hazard Master」は、企業の拠点ごとのハザードマップを、国家資格をもつ専門技術士が各種公的機関の公表するハザード情報を用いて調査・分析し、作成するサービス。
企業向けのハザードマップ作成サービスをソリューションとして提供するのは国内初で、自治体向けのハザードマップ作成で豊富な実績をもつ八千代エンジニヤリングと企業ユーザーの動向をよく知るイグアスが、民間企業ならではのニーズを踏まえてサービス化したのがHazard Masterである。
製品化を担当したイグアスの鈴木雄二氏(製品&ソリューション事業部 担当部長)は、「企業向けのハザードマップ作成サービスが、これまで市場で提供されていなかったことに驚きました」と振り返る。
Hazard Masterの特徴は、簡潔かつコンパクトにハザード情報がまとめられ、拠点が全国各地に分散していても、一目でリスクの状況を把握できる点である。
1つの拠点のハザード情報は、A3用紙2枚の定型フォーマットにビジュアルにまとめられる。その定型フォーマットは、総括編、地震・津波編、水害編の3部で構成され、総括編では、洪水・土砂・高潮・津波・液状化・地震のそれぞれの危険度をA〜Eのランクで明記。各災害のリスクがどの程度なのかが、すぐにわかる構成としている(図表1)。
地震・津波編では、過去の地震・断層・火災等・揺れ・液状化・津波の6項目、水害編では、土地利用の変遷・地形・過去の水害・注意すべき河川・洪水・土砂災害・高潮の7項目を設け、それぞれのリスクについて技術士が丁寧にわかりやすく解説。対策が必要な場合は対策例の記載もある。
ほかに、「全体サマリ資料」として全拠点リスク一覧表や、災害リスク別に全拠点を日本地図上にプロットした情報、ハザードマップについての解説資料も提供される。「全体サマリ資料を使うことによって、経営戦略への災害および拠点リスクの組み込み、拠点への説明や啓蒙をスムーズに行えます」と、鈴木氏は話す。
公的なハザードマップは
問題や難点がある
ところで、「ハザードマップの作成サービス」と聞くと、国や市区町村が無料で公開しているハザードマップを使えば済むのではないか、と訝しがる人もいるのだろう。
これに対して鈴木氏は、「自治体提供のハザードマップは、企業が利用するには多くの点で問題があります」と、次のように指摘する。
「その大きな問題点は、ハザードマップが地震や洪水、土砂災害など災害別に作成されているために、ある地点の災害リスクを総合的に捉えるのが困難なことです。しかも、リスク算出の根拠となる出典元が国の関連機関や県市町村ごとにまちまちであったり、表示されるデータが地域によって差があるので、複数の拠点をもつ企業が全社レベルの災害対策プランを立てるための基礎資料とするには問題が多過ぎます。また自治体のハザードマップではリスクに対する評価やコメントがないので、ハザードマップを使ってどのような防災計画を立てればよいのか、手がかりを掴みにくいのが難点です」
ユーザーは拠点リストの提出のみ
独自の診断項目も追加可能
Hazard Masterの利用は、図表2の手順で進められる。ユーザーは住所を明記した拠点のリストを提出するだけで済み、そのほかはイグアス側の作業となる。要件定義の段階で、ユーザー独自の診断項目を追加することも可能。ハザードマップの作成期間は、「10拠点で約1カ月、300拠点で約3カ月」(鈴木氏)。費用は1拠点10万円で、ほかに基本料金50万円がかかる。
Hazard Masterのメリットは、専門家の知見・ハウツーに基づくハザードマップをスピーディに低コストで得ることができ、BCP策定の基礎資料としたり顧客向けの説明資料などに利用できる点である(図表3)。
鈴木 雄二氏
株式会社イグアス
製品&ソリューション事業部
担当部長
[IS magazine No.26(2020年1月)掲載]