MENU

事例|宮城県対がん協会 ~IBM i+オープン技術で25年来の基幹システムを全面刷新、“ミス・ゼロ”化と受診者サービス向上を実現

日本で初めて胃がん集団検診を実施するなど、がん集団検診普及の先頭に立って活動してきた宮城県対がん協会では、25年来利用してきたIBM i上の基幹システムを全面的に刷新した。PHPとRPGの連携など注目すべきシステムになっている。

 

 

日本で初めて
胃がん集団検診を実施

 宮城県対がん協会は、1958年に当時東北大学長であった故黒川利雄氏のがん征圧にかける思想と熱意により、全国に先駆けて民間の「がん征圧」推進母体として行政、経済界、医師会などの支援により創設された、日本におけるがん対策の先進的役割を担う公益財団法人である。発足(1958年)まもない1960年には、X線撮影装置を搭載した大型車を開発し、日本で初めて胃がんの集団検診を開始。翌々年の1962年には子宮がんの集団検診をスタートさせ、さらに1964年には子宮がん検査のための検診車を独自に完成させるなど、日本におけるがん集団検診の道を切り拓いてきた。

 受診者数は、年間約40万人(2015年3月末)。内訳は、胃がん=18.2万人、子宮がん=11.1万人、乳がん=5.3万人、大腸がん=5.7万人という数字で8割が住民(地区町村が実施)、2割が企業利用だが、宮城県の15歳以上の人口が約200万人なので、検診の重複を無視すれば、5人に1人が同協会の検診を受けていることになる。2014年には、胃がんの検診だけで800万人を突破した。

 こうした非常に多くの受診者を扱う同協会では、早くからシステム化を進めてきた。1987年にシステム/36を導入して胃がん検診システムを構築(1988年)、その後AS/400 B10に更新して以降、子宮がん、乳がんなど新しい検診種目が加わるごとにAS/400上でそれぞれの検診システムを開発してきた。ハードウェアは保守切れのタイミングで4〜5年ごとに更改してきたが、各検診システムは細かい修正を都度、行ってきたものの、大きな変更を加えずに現在に至っている。「胃がん検診システムなどは、ほぼ25年以上前に設計したプログラムの内容でした」と語るのは、情報システム課の渡辺浩之課長である。

 

渡辺 浩之氏 情報システム課 課長(職位は取材当時)

 

 長期間、使い続けてこられたのは、この間の5〜6回に及ぶサーバー切り替えにもかかわらず、各システムとも安定して稼働してきたからだが、「しかし最近は、システムと運用の両面で実情に合わない部分が目立ってきていました」と渡辺氏は話す。

「たとえば最近は、胃がん検診でピロリ菌検査が加わっていますが、それに対応するためデータベースのフィールドに新しい項目を追加しようとしても、プログラムが古い形式で作られているので思うように改修できなかったり、一連の運用の中で二重入力を行っている工程があり、非効率の解消と正確性の向上が必要になっていました」(渡辺氏)

 

受診者照会システムは
RPG+PHPで再構築

 同協会では、2013年にシステムの全面的な再構築を決め、2014年4月から開発をスタート。胃がん検診システムについては2015年4月に、乳がん・子宮がん・大腸がんの各検診システムはこの4月にカットオーバーし、サービスインさせた。

 改築した主なシステムは、次の4つである。

・ 受診者照会システム
・ 検診データエントリーシステム
・ 計画表入力・マスター照会システム
・ 結果通知書システム

 受診者照会システムは従来、検診システムごとにRPGで構築していたが、たとえば胃がんと乳がんと子宮がんを受診した人を照会する場合は、検診システムごとに表示させるしかなく、非効率だった。再構築したシステムではZend Serverを導入してPHPで画面を開発し、そのWeb画面で受診者の受診者番号・氏名・生年月日などを入力して照会すると、複数の検診データベースから条件に合う受診データを抽出し、その結果のすべてを1画面で表示できるようにした。仕組みとしては、Web画面からCL経由でRPGを起動し、各DB2 for iから抽出したデータをZend Serverへ渡してWeb画面で展開するものである。約1340万件あるデータベースへの照会からデータの抽出、画面表示まで5秒程度で、「快適に照会が行えています」と渡辺氏は感想を述べる。

 検診データエントリーシステムは、受診者が検診を終えて提出した「受診票」の内容を入力するためのシステムである。従来は、5250画面で入力後、紙に出力してチェックしていたが、新システムでは同じ受診票を2名のエントリー担当者が並行して入力し、システム上で整合性をチェックして、合致している場合のみ、システムに登録できる仕組みとした。

「紙を目視でチェックする従来のやり方は、見逃しや入力ミスなどがどうしても起きてしまいゼロになりませんでした。新しいエントリーシステムはダブル入力というロスはあるものの、同じ入力ミスを別々のエントリー担当者が犯す確率はきわめて低く完璧を期待できるのと、1件あたりの処理スピードが格段に速くなるので導入しました。ミスをどうにかしてなくしたいという思いで再構築しましたが、高い導入効果が得られています」と渡辺氏は評価する。

 ただし当初は、受診者照会システムと同様に、RPGとPHPの組み合わせで再構築する計画だった。しかしパフォーマンスが出ず、いったん組み上げたシステムを廃棄して、RPGで作り直した。「それが心残りです」と渡辺氏は振り返る。

 計画表入力・マスター照会システムの「計画表」とは、受託した検診のスケジュール表である。従来は、計画課の担当者がExcelに入力し、紙に出力した計画表を関係部署に配布。計画課担当者はその内容をあらためてIBM i上の各検診システムにエントリーするという運用形態をとっていた。新しいシステムでは、IBM iへの入力インターフェースをExcelに変え、計画課の担当者がExcelに入力すると、直接DB2上の計画マスターに反映するようにした。また各種マスターを関連部署の担当者がExcelで照会できるようにも変更した。これにより、二重入力がなくなり、紙の計画表が不要になった。1つの業務改革といえる改築である。

 最後の結果通知書は、検診結果を受診者へ通知する葉書で、従来は事前印刷済みの3つ折り圧着葉書に5250からラインプリンタへスプールファイルを送り印刷していたが、「ラインプリンタなので文字の大きさやレイアウトに制約があり、しかも専用紙だったのでコスト高になっていました」と渡辺氏は改築の理由を話す。

 新しいシステムではIBM i Access for Windows(OLEDB、ODBC)で接続し、Microsoft Accessで帳票の設計や印刷対象の確認、印刷内容のプレビューを行えるようにするとともに、IBM iから理想科学工業の高速カラープリンター「ORPHIS」へのダイレクト印刷に切り替えた。これによりイラストを入れたり文字フォントや色を自由に選択できるようになり、普通紙への印刷が可能になった。乳がん検診の結果通知書をピンク色の色調に統一するなど「雰囲気が柔らかくなりました」(渡辺氏)という。

 今回のシステム再構築は、30年来の協力会社であるオリオシステムが担当したが、「検診システムの内容を熟知しているので、細かい要望にも機敏に対応してもらえました」と渡辺氏は話す。

 

・・・・・・・・

Company Profile

公益財団法人宮城県対がん協会

本社:宮城県仙台市
設立:1958年
基本財産:3030万円
売上高:22億円 
職員数:250名
事業内容:がん予防対策の調査研究、がん登録、がん検診の実施、がん予防などに関する普及啓発、がん患者・家族の相談対応、医療従事者の養成および研究助成
http://www.miyagi-taigan.or.jp/

 

[i Magazine 2016 Summer(2016年5月)掲載]

新着