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事例|ASTI株式会社 ~クラウドサービスで稼働する基幹システムから 災対サイトへリアルタイムにデータ同期

本 社:静岡県浜松市
設 立:1963年
資本金:24億7623万円
売上高:475億4700万円 (連結、2019年3月期)
従業員数:連結4169名、単体566名 (2019年3月末)
事業内容:車載電装品、民生産業機器、ワイヤーハーネスなどの設計・製造・販売
https://www.asti.co.jp/

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東日本大震災を契機に
BCP対策の強化へ動き出す

 静岡県浜松市にあるASTIの本社からは、防波堤の向こうに美しい遠州灘が見渡せる。多くの製造業が立地するこの地域は、東海地震の想定震源域である。大震災の危険性が指摘され始めた数十年前から、県内の多くの企業が災害対策に力を入れてきた。

 ASTIも例外ではない。本社工場をはじめ、海岸線に沿っていくつもの生産工場が稼働する同社では、とくに東日本大震災以降、津波の脅威をいっそう身近に感じ、BCP対策を強化させてきた。

 データセンターへのサーバー移設、IBM i上で稼働する基幹システムのクラウド化、そしてHAソリューションを利用したサーバー二重化による災対サイトの設置など、ここ数年取り組んできた対策は、いずれもBCP強化策の一環である(図表1)。

 

 同社は1990年にAS/400を導入し、販売・生産管理を核にした基幹システムをRPGで構築した。その後、1998年に生産管理パッケージを大幅にカスタマイズして、新・基幹システム「AIMACS(ASTI Integrated Manufacturing Control System)」として再構築し、改修を重ねながら現在も運用を続けている。

 また約10年前には、CADで設計した部品の座標データをIBM i上のデータベースで一元管理する「ワイヤーハーネス設計支援システム」を構築した。

 さらに同じころ、トレーサビリティシステムの運用をIBM i上で開始している。ハンディターミナルやバーコードリーダーを工場に大量導入し、生産から出荷までのプロセスでトランザクションが発生するたびに、IBM iのデータベースにトレーサビリティ情報として蓄積する。

 万一何らかのトラブルが発生した際には、生産工程を即座にトレースし、該当部品や影響範囲などを特定して、迅速に対応する仕組みを確立している。

 

IBM iの基幹システムを
IIJのクラウドサービスへ

 基幹システムを運用するPower Systemsは長年、耐震工事を施した本社工場のサーバールームで運用してきたが、生産に直結するシステムの重要性が増すにつれ、本社からサーバーを移す検討が本格化。2006年には、神奈川県にあるデータセンターへPower Systemsを移設した。

 その後、東日本大震災の発生を機に、データセンターの立地エリアに液状化の危険性が指摘されたため、名古屋にある別のデータセンターへ、Power Systemsやオープン系サーバーを移設している。

 さらに2016年6月からは、IIJグローバルソリューションズ(以下、IIJ)の提供するIBM iのIaaS型クラウドサービスである「IIJ GIO Power-iサービス」の利用を開始した。

 同社はクラウドサービスの利用に先立つ2013年、サーバーリプレースのタイミングを迎えた際、それまで買い取りで導入してきたPower Systemsを、オンプレミスのまま、月額料金制に切り替えた。

「データセンターへの移設、そして月額料金制への移行と、社内にサーバーを置かないクラウドライクな運用を段階的に進めるなかで、IBM iをクラウドサービスへ移管することが、BCP強化策の現実的な選択肢として浮上してきました。ちょうどクラウドサービスが台頭し始めたころで、同程度の性能を備え、現状の費用感と同じような料金体系をもつクラウドサービスを検討し、コストパフォーマンスなどの観点からIIJの採用を決めました」と当時の状況を語るのは、経営本部 経営企画部 情報システム課の小林昌二課長代理である。


小林 昌二氏
経営本部 経営企画部
情報システム課
課長代理

 

「Maxava HA」を利用して
災対サイトを構築

 IBM iのクラウドサービス開始が契機となり、同社では災対サイトの設置についても検討を進めることになった。以前から、HAソリューションによるサーバーの二重化を検討していたが、2台のPower Systemsを導入する予算の見通しがなかなか立たず、実現を見送ってきた経緯がある。

「IIJのクラウドサービスは安定しており、信頼性、性能、予算と、どの面からも不満はありません。大規模な災害発生に耐えられる堅牢性も備えています。しかし局所的な災害やテロ、通信障害、あるいはクラウドベンダー側の事情など、何らかの不測の事態は起き得るわけで、1つのクラウドセンターという限られたリソースでの運用は、BCP対策として十分ではないと考えました。そこでクラウドサービスへの移行をきっかけに、二重化に向けた具体的な検討がスタートすることになりました」と、経営本部 経営企画部の鈴木陽介部長は語る。

鈴木 陽介氏
経営本部 経営企画部
部長

 

 クラウドサービスで運用している本番機の基幹データを、バックアップ機へリアルタイムに同期し、本番機が何らかの理由で利用不能になった場合は、迅速にバックアップ機に切り替えられる環境を実現する(図表2)。

 

 同社ではそのためのHAソリューションをいくつか検討し、「Maxava HA」(Maxava)を採用した。検討した複数の製品のなかではコストパフォーマンスのよさに加え、遅延の生じないリアルタイムなレプリケーションが可能であること、IFS領域までをバックアップ対象に含められること、さらにクラウドライセンスに対応していたことが決め手となった。

 とくに機能性の高さと並び、クラウドライセンスに対応している点は、同社が求める災対サイトを実現するうえで重要なポイントとなったようだ。

「本番機であるPower Systemsをクラウドサービスで利用するメリットや快適さを実感していたので、バックアップ機を従来のような自社内のオンプレミス環境で運用するのは、BCPの観点からも適切ではないと考えました。その一方、クラウドサービスでは運用環境に対する自由度があまりなく、クラウドベンダーの裁量にすべて任せることになるので、ベンダーロックインという観点では不安が残ります。そこでオンプレミスのように自社の裁量に応じた運用が可能で、かつクラウドのように運用効率性の高い環境の実現を模索しました」(小林氏)

 全国数カ所のデータセンターに足を運び、約1年をかけて慎重に検討を続けた結果、関西地方のデータセンターに災対サイトを置くことを決定した。同社専用のPower SystemsとIBM iを設置し、データセンターでオンプレミス運用を行うが、利用料金は月額制で、Maxava HAもクラウドライセンスとして月額料金を支払う。

 Maxava HAの導入・設定、チューニングなどの作業については、Maxavaのパートナーである福岡情報ビジネスセンター(以下、FBI)が担当した。

「バックアップ機の運用についてもIIJのクラウドサービスを利用し、本番機のあるエリアとは別のセンターに災対サイトを設置する案も検討しました。しかし1社のベンダーに依存することなく、この機会にいろいろなパートナーとの付き合いを広げ、情報やノウハウを幅広く吸収していくことが重要だと考え、最終的にこのような構成を採用することになりました」(鈴木氏)

 

グローバルな生産・供給体制に向け
基幹システムの可用性を向上

 上記の正式決定は2018年6月。同年12月から関東のクラウドセンターにある本番機から、関西にあるデータセンターのバックアップ機へデータの同期を開始し、災対サイトが無事に立ち上がった。

 Maxava HAはリモートモニタリングが可能で、情報システム課では本社から日々、同期状態の確認などの作業を実施している。しかし限られた人員で多くのシステム業務に対応せねばならず、出張などで本社を不在にすることも増えていることから、2019年8月に、Maxava HAに関するサポート契約をFBIと締結。日々の運用管理も委託することになった。2020年には、非常時を想定した切り替え訓練なども、FBIの協力を得て実施する計画である。

 同社は中国、ベトナム、インドに生産拠点を展開するなど、グローバル体制を拡大している。2025年をゴールとする中長期経営計画も進行中で、国内外の拠点を見据えたグローバルな生産・供給体制の最適化は大きな課題である。

 その計画に沿って、海外拠点からもIBM i上の生産管理システムを利用可能にするべく準備を進めている。時差のあるアジア各地の生産工場で利用するとなると、24時間365日の可用性に対する要件は一層厳しくなり、基幹システムの重要性はますます高まってくる。

 オンプレミスとクラウドサービス双方の利点をうまく取り入れて実現した同社のBCP強化策は、今後のグローバル体制を支える強力な基盤となるだろう。

 

[i Magazine 2019 Winter掲載]