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事例|辰馬本家酒造株式会社 ~RPG+VB6による10年来のシステムを LANSAで一新、次世代の基盤を構築

辰馬本家酒造株式会社

本 社:兵庫県西宮市
創業:1662(寛文2)年
設立:1917(大正6)年
資本金:9000万円
従業員数:200名
事業内容:清酒「白鹿」「黒松白鹿」や焼酎、リキュールの製造・販売、および「白鹿奈良漬」その他関連商品の販売
https://www.hakushika.co.jp/

灘五郷の1つ、西宮郷で350年以上にわたって日本酒造りを続ける日本を代表する清酒メーカー。清酒「白鹿」の名前は世界でも有名。かつては海運業、銀行業なども営んでいたことがあり、現在も、甲陽学院中学校や甲陽学院高等学校などの教育事業をはじめとして、文化、スポーツ、レストラン、不動産などの事業を幅広く展開する。

 

RPG+VB6で10年経過
システムの限界を迎える


 清酒「白鹿」「黒松白鹿」のブランド名で世界的にも広く知られ、創業350年以上の歴史をもつ辰馬本家酒造では、2004年にメインフレームからIBM iへの移行を実施し、IBM i上の業務ロジックをRPGで、クライアント側の基幹画面をVisual Basic 6(以下、VB)で開発したシステムを導入している(図表1

 そして2010年代半ばまで利用してきたが、VB6のメーカーサポートが既に終了していたことやIBM iの利用が10年に及んでいたことから、2014年に基幹システムの刷新へ向けて新たな取り組みを開始した。

「VBで開発した基幹画面のGUIは、当時としては新鮮でエンドユーザーに好評でしたが、2008年にVB6のメーカーサポートが終了し、そのうえシステム全体の保守・サポートを委託してきたベンダーの撤退と新しいベンダーへの切り替えなどがあり、結果的に細かい不具合の修正や変更の要望に対応できないまま運用を続けていました。また、基幹画面がVB6のままだったのでWindows 7へバージョンアップしたクライアントPCでさまざまなトラブルが起きるなど、システムの限界を迎えていました」と、経営管理室の瀧口慶室長は基幹システム刷新の理由を説明する。

瀧口 慶氏 経営管理室 室長

 

ベンダーから3種類の提案
最終的にLANSAを選択

 ただし「刷新」といっても、IBM iから他のプラットフォームへ切り替える考えは「当初からありませんでした」という。10年来の利用実績と、IBM i上に多数のRPGプログラムとデータが資産としてあったからである。

「IBM iは2004年からの利用で一度も障害による停止がなく、運用メンテナンスの必要もなく稼働し続けてきました。このような高い信頼性と運用性を備えるプラットフォームは、オープン系では考えられません。またサーバーを変更するためにプログラムを一から作り直すのは大変で、膨大なコストがかかるうえにリスクも伴います。それよりは、IBM i上の既存資産を有効活用するほうがメリットが大きいとの認識をもっていました」(瀧口氏)

 瀧口氏によると、基幹システム刷新へ向けての議論は、主として「VBで構築していたフロント部分をどう作り変えるか」に費やされたという。

 サポートを委託しているベル・データからは、「.NET」「PHP」「LANSA」の3種類の提案があった。クライアント部分を、このどれかで一新するという案である。

 そして検討の末に選択したのがランサ・ジャパンのLANSAだったが、この決定には、情報システム部門とシステムのあり方に対する瀧口氏の考え方が色濃く反映されている。

「昨今のITエンジニア不足と国などによる将来予測を踏まえると、システム部員の確保は今後ますます難しくなり、ITスキルの習得も、技術の多様化と進展が急速なのでいっそう困難になると思われます。それならば、システム部員の数は少数に絞ってシステム企画に専念させ、設計・開発・保守・運用は高度なスキルと経験をもつ外部のに任せるほうが効率的です。またシステムは、サーバー/インフラ/基幹システムを1つのテクノロジーで1本化して集中させ、さらに自社で開発せざるを得ないもの以外はパッケージを採用するほうが、システムにかかる負担・工数を低減でき、システム部門の持続性を高めることが可能です。新しいシステムの検討は、このような考えに基づき進めました」

 最終的にLANSAを選んだ決め手として瀧口氏は、「開発するプログラムのほぼすべてがIBM i上で稼働し、別サーバーを立てることやクライアントモジュールの配布が不要な点」を挙げる。「以前は、不具合が起きると、その原因がサーバー側かクライアント側なのかを判定するのに時間がかかり、苦労していました」

 

「UIは大きく変えない」など
再構築の4つの方針

 再構築にあたっては、次の4点を方針とした。

●ユーザーインターフェースを大きく変えない(導入時のユーザーの混乱を回避する)
●既存の機能に影響を与えずに、追加機能の開発と従来からのバグの修正を行う
●無駄な処理や効率の悪い部分を改良し、パフォーマンスを向上させる
●メンテナンス効率向上のために、モジュールごとに異なっていた処理手順を標準化する

 開発は2015年5月から始まり約1年半後の2016年末に終了、最終的な検証と調整を行って翌2017年4月にサービスインした。LANSA(Visual LANSA)による作り直しの対象としたのは、業務向けが124画面、マスターメンテナンス用が64画面で(図表2、図表3)、このほか経費精算用の30画面を新規に開発している。

図表2 Visual Basic 6で開発した従来の基幹システム画面

 

図表3 LANSA(Visual LANSA)による再構築後の基幹システム画面

 従来からの業務プログラム(RPG)を再利用したので、テンポよく作業が進んだという。開発はすべてベンダーへのアウトソースで、経営管理室は受け入れテストに徹するという体制とした。

 

各種業務システムの
IBM iに統合・集約

 サービスインを振り返り瀧口氏は、「驚くほど静かな立ち上がりでした」と感想を口にする。
「2004年の移行ではオン・ジョブ後もバグが頻出し、落ち着くまでに2年近くかかりましたが、今回は無風と言っていいほど混乱はありませんでした。これは、今回の移行では業務要件の変更があまりなかったのと、クライアント画面を変えないようにしたことが功を奏したと考えています」

 基幹システムのサービスイン後、そのほかの業務システムの開発とIBM iへの統合を進めた。まず2017年11月に、従来Excelで行っていた生産管理のシステム化、2018年4月に申請・承認のワークフロー、同10月に輸出システムというスケジュールである。

 さらに、これまで基幹システムとの仕訳データの受け渡しをCSVで行っていた財務会計システムを新たなパッケージソフトに切り替え、仕訳を完全連動させる仕組みを構築した。

 また、2015年にパッケージソフトに入れ替えた醸造システム(酒類の製造管理システム)とも製造データの連動を実現している(図表4)


 瀧口氏は、「基幹システムの再構築と各種システムのIBM iへの統合、他システムとの連携性の強化によって、今後、長期にわたって安定して利用できるシステム基盤を構築できたと思っています。情報システム部門の本来あるべき姿である経営戦略部門を目指す基盤が整いました(コラム参照)」と、今回の移行を評価する。

 同社は現在、2019年4月にリリース予定のアメーバ経営をベースとする管理会計システムの開発を進行中である。

 

COLUMN|情報システム部門はコンピュータだけの担当ではない

本来の姿へ──システム部門の役割を広げる辰馬本家酒造の取り組み

 
 辰馬本家酒造では、システム部門の役割・位置づけが大きく変わりつつある。その分岐点となった2012年の原価管理システムの構築・導入について、瀧口氏は次のように話す。

「2010年当時、当社では原価計算を部署ごとに行い、全社統一の方法が確立していない状況でした。いろいろな局面で支障も生じていましたが、そのままの状態が続いていたのです。そこでシステム部門から全社統一の計算方法の確立を提案し、システム部門が主体的に動いて実現させたという経緯があります。こうした案件は、業務部門が最初に動き、システム部門はその要請を受けてシステム化に取り組むのがふつうですが、当社にとって必要なものはシステム部門の管轄以外であっても率先して案件化し実現する、というさきがけのケースになりました。システム部門は、データや業務プロセスの観点から全社を俯瞰できるわけですから、システムのお守りだけでない役割を発揮できると考え、取り組みました」

 瀧口氏はこれに先立って、「システム部門はコンピュータだけではない」という“キャンペーン”を経営管理室で続けていたという。

「室長からは常に、業務部門から言われたことだけを鵜呑みにするな、真意を探れ、大局的に考えろ、と言われています。システム部員の間でもそうした考え方が身に付き始めて、システムであるか否かにかかわらず、社内で不足しているものや、あるとよいと思われることについて言葉を上げることが多くなりました」と語るのは、経営管理室でリーダーを務める鎌田佑美氏である。

鎌田 佑美氏 経営管理室

 経営管理室では、「他部署で手に余っていることがあれば、システム部門の仕事としてどんどん取り込む」という方針で、さまざまな実績を残してきた。「ビジネスフォンのFMC化(固定/移動体通信の融合)」などもその1つだ。

 そして現在、アメーバ経営の管理会計システムの構築に取り組む。

「アメーバ経営を導入する際は経理部門が主導することが多いですが、当社はシステム部門を中心に導入しました。その流れで、部門名が『システムマネジメント室』から『経営管理室』に改称されました(図表)。経営に関わる仕事と情報システム部門の仕事は表裏一体である、ということを明確に示す名称であると考えています」(瀧口氏)

 


[i Magazine 2019 Spring(2019年3月発行)掲載]

 

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