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事例|尾家産業株式会社 ~常時接続のチャットボットで外出先から在庫照会

COMPANY PROFILE
本 社:大阪府大阪市
創 業:1947年
設 立:1961年
資本金:13億570万円
売上高:1001億円(2019年3月期)
従業員数:921名(2019年3月末)
事業内容:外食、中食、産業給食、宿泊施設、病院や高齢者施設などに食材や厨房用品を提供
http://www.oie.co.jp/

1947年に大阪の公設市場にある食料品店として誕生し、現在は全国に販売拠点を展開する総合食品商社に成長した。独自のプライベートブランド商品や顧客ニーズにマッチした幅広い取り扱い商材を揃える。現在では外食、中食、産業給食、宿泊施設などのほか、病院や高齢者施設などへ販路を大きく拡大している。

 

 

 

業務改善アンケートでの要望
「外出先からの在庫照会」

 尾家産業は創業70周年を迎えた2017年、全社員に向けた「業務改善アンケート」を実施した。「今後の成長に向けて、業務の生産性・効率性を高めるには、どのような業務改善が必要か」を個々人が自らの業務に照らして考えることを狙いに、1人が最低1つの改善案を提出する。

 人事総務部の主導で実施されたこのアンケートでは、1650以上の要望やアイデアが寄せられた。それらは営業本部や管理本部から主管部署となる各部門へ振り分けられ、それぞれに解決の道筋を探ることになった。システム部にはITで解決すべき多くの改善項目が寄せられたが、そのなかで最も希望が多く、かつ重要であると判断されたのが、「外出先から在庫データを確認したい」という要望への対応である。

 同社はPower SystemsとIBM i上で、「SMILE」と名付けられた基幹システムを長く運用しているが、それまでモバイルデバイスにより外出先から基幹データを確認できる環境は整備されていなかった。そのため在庫データなどを照会する場合は、会社の営業支援担当者に電話で確認したり、帰社後に5250端末を操作する必要があった。

 2017年春にアンケートを実施し、集計・分類、そして実施の可否を判断するスクリーニング作業を経たあと、システム部は2018年春から、この課題解決に向けて具体的に動き出した。社外から基幹システムの在庫データを参照する方法として、真っ先に検討されたのは5250画面のWeb化である。

 システム部では当初、IBM iのWebアプリケーション開発に向けてすでに導入していた「LANSA for the Web」(ランサ・ジャパン)や、BIツールとしてやはり利用を開始していた「WebReport 2.0」(JBアドバンスト・テクノロジー)などの利用をまず考えたという。

 しかしここではスマートフォン画面での見づらさに加え、VPN接続の煩雑さが大きな課題となった。

「お客様と商談を進めながら即座に在庫データを確認したい場面では、IDやパスワードを入力してVPNに接続する時間や煩雑さをできるだけ排除したいと考えました。そこで常時接続を実現する手段がないかと、検討を始めたのです」と当時を振り返るのは、システム部の越智亮介部長である。

 

越智 亮介 氏 システム部 部長

 

 越智氏は、そのころから普及のきざしを見せ始めたAIチャットボットで、常時接続による在庫照会を実現できないかと考えていた。そして2018年9月ごろ、以前から付き合いのあるJBCCに相談したところ、チャットボットに関する以下のような導入提案を受けたという。

 まず基幹システムとクラウド環境のkintoneを、ノンプログラミングのシステム連携ツールである「Qanat2.0」(JBアドバンスト・テクノロジー)で接続する。そしてkintoneのクラウド環境に在庫データを格納。「CloudAIライト for kintone」(JBCC。以下、CloudAIライト)によるチャットボットで、自然言語での問い合わせに対してkintoneの在庫データを検索。そして「LINE WORKS」(ワークスモバイルジャパン)で、ユーザーのスマートフォンに表示するという仕組みである(図表1)。

 

「CloudAIライト」を活用して
在庫照会チャットボットを実現

 同社がこの提案を評価した理由は、以下の5点である。

 1つ目は、CloudAIライトであれば学習データが不要で、自然な会話形式によりkintone上のデータを照会するチャットボットを実現できること。2つ目は、基幹システムが稼働するIBM iに直接アクセスするのではなく、kintoneを公開サーバーにできること。

 3つ目は、Qanat2.0により常時接続が可能となり、VPN接続の煩雑さを解消できること。4つ目は以前からLINE WORKSを利用しているので、使い慣れたLINEのインターフェースで在庫データを照会できること(同社では2017年から、スマートフォンを支給されているほぼ全社員がLINE WORKSを使って日常的に業務のやり取りをしている)。

 そして5つ目は、LINE WORKSだけでなく、Qanat2.0もすでに導入済みであるため、新規導入はCloudAIライトとkintoneのみとなり、どちらもクラウドサービスなので全体的な導入コストが低く抑えられることである。

 ちなみにQanat2.0を導入したのは2018年5月。同社では毎年、全国16会場で「提案会」を開催している。これは各食品メーカーが商品を出展し、来場する顧客に紹介する一種の展示会・商談会である。基幹システムと連携し、来場者の確認やサンプル依頼案件のデータ管理などを行う提案会支援システム「OCS(Oie Cloud System)」をクラウド環境(AWS)で構築するに際して、OCSと基幹システムを連携するために採用したのがQanat2.0であった(OCSは2018年8月から、各地の提案会で利用がスタートしている)。

 つまりCloudAIライトで簡単にチャットボットが作成可能であること、そしてLINE WORKSやQanat2.0など、すでに一部のツールが導入済みであったことなどが上記の提案を評価した大きな理由であったようだ。

 これらを軸とするチャットボットの全体構想が固まったのは2019年2月である。同年3月に正式採用を決定した。

 そして3〜6月の3カ月で開発を終了。6〜9月に、約100名のユーザーを対象に運用テストを実施した。9月にはアンケートにより運用の感想や改善点などを収集。20〜30項目の改良を終えて、2019年11月〜2020年1月までの3カ月で、同じ100ユーザーに対して第2次テストを実施した。

 1月末に再度、アンケートを実施して、その結果を踏まえて再度の改善に着手。そして今年3月初頭に、ほぼ全社員による運用がスタートしている。

「利用の主体は営業担当者ですが、最初は内勤の営業支援担当者を含め、できるだけ多くの社員に利用してもらい、社内で活用の機運を高めたうえで、今後も活用したいと望む社員だけを対象に本運用をスタートさせる予定です。そのために今年6月に最終アンケートを実施します」と語るのは、システム部の福本秀樹氏である。

 今年6月以降に本運用を開始するチャットボットは、「OIEBOT(オイエボット)スマイル君」と名付けられている。

 

福本 秀樹 氏 システム部

 

今後は社内の問い合わせに
チャットボットを拡大

 3カ月間の開発作業は、おおむね次のようなステップで進められた。

 まずkintone上に、商品や在庫数など表示する情報のデータベースを作成する。kintoneは基幹データを格納するエリアとしてのみ利用することになる。

 次に、IBM i側からkintoneへデータを送出するためのインターフェースプログラムをRPGで作成する。

 さらにQanat2.0で、IBM iとkintoneを接続する。担当した福本氏によれば、「私がQanat2.0を利用したのは初めてですが、接続する対象をマッピングする作業がWebReport 2.0とよく似ていたので、あまり迷うことなく作業を進められました」とのこと。

 そして最後に、CloudAIライトでチャットボットを作成する。「CloudAIライト for kintone」はあらかじめ、検索キーワードが入力されたらすぐにkintoneのレコードをAIで参照できるように準備されているので、あとは検索・表示する項目を選択するだけの作業となる。

 在庫照会は、社員の属する事業所単位で検索するため、当初はユーザーによる事業所入力が必須であったが、アンケートで「いちいち入力するのは面倒」との声が多かった。そこで事業所入力を不要にするなど、社員の意見を反映したさまざまな改善が施されている。利用の一例は、図表2(本文末尾に掲載)のとおりである。

 今年6月以降に本運用が実現する「OIEBOTスマイル君」は在庫照会だけでなく、どの顧客にどれだけの数量の商品を出庫したかがわかる入出庫明細の確認などへと拡張していく計画である。

 さらに今後は、社内のさまざまな問い合わせに対応するQ&Aシステムもチャットボット化していく案が浮上している。

「CloudAIライトによるチャットボット構想が浮上した当初から、営業担当者向けのデータ照会だけでなく、社内の問い合わせ業務に活用していけると考えていました」(越智氏)

 現時点で対象業務となりそうなのは、人事・総務系の多種多様な問い合わせ業務、そしてシステム部に寄せられるIT関連のヘルプデスク業務である。

「在庫照会用のチャットボットでは、検索対象がシンプルであったため、導入も非常に簡単で苦労した点もなく、正直なところ本格的なAI活用という実感があまりわかなかったです。しかし人事・総務系やシステム関連の問い合わせ用チャットボットでは、質問に対する的確な回答を選ぶための学習やフィードバックなど、本格的なAI活用の領域に踏み込んでいくことになるでしょう。そのために必要な道具立てやデータの準備などに向けて、検討をスタートさせたところです。今回の在庫照会チャットボットで得た経験を踏まえて、できれば今年度末までに実現させたいと考えています」(越智氏)

 営業担当者による在庫照会という最初の取り組みを経て、同社のAI活用は次のフェーズへと進んでいくことになりそうだ。

 

図表2 在庫照会チャットボットの流れ(上から下へ画面遷移)

 

[IS magazine No.27(2020年5月)掲載]

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