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事例|住商モンブラン株式会社 ~IBM Cloud上にEDI基盤を移行 柔軟な拡張性・高度なセキュリティを実現 

本社:大阪府大阪市
設立:1950年
資本金:8000万円
売上高:127億円(2019年5月)
従業員数:141名
事業内容:白衣(医療・食品用)、サービスユニフォームをはじめ作業服など2次製品および各種織・編物素材の企画、生産、販売

http://scmb.montblanc-web.jp/


過去30年以上にわたり
注文品の「即納」を継続

 住商モンブランは、白衣を中心としたユニフォーム専業のメーカーで、1950年の創業以来、商品開発力と品質の高さを武器に業容を拡大してきた企業である。最近ではローラアシュレイ、JUNKO KOSHINOといった人気ファッション・ブランドやスポーツ用品メーカーのアシックスと提携してラインナップを広げ、年間約200種もの新商品を発表している。

 日本の衣料品市場は、市場規模が年々縮小するなか(金額ベースで2017年は1991年の約2/3)出荷数量は逆に拡大する(1991年→2017年で約1.5倍)という激動の時期を迎えている。そのなかにあって過去最高の業績を達成し(2019年5月期)、成長を続けているのが住商モンブランだ。

 その同社の語るうえで欠かせない、もう1つの大きな特徴が「即納」である。同社は過去30年以上にわたり「注文品の翌日納品」というビジネスを続けてきたが、それは次のような流れで行われている。

 同社では、約1000社ある顧客からの注文を、メール、FAX、Web EDIの3通りの方法で受けている。メールで受けた注文はフェアディンカムの「WilComm」を使い自動でDb2 for iへ、FAXで送られてきた注文はオペレータが手動でDb2 for iへ、Web EDIの注文はIBM i上に設けたWebサイトからダイレクトにDb2 for iへ書き込まれる。

 そして、それらの注文データを基にIBM i上の入出庫管理プログラムを使って出荷指示データファイルをDB2 for i上に作成し、物流業者がインターネット越しにデータを取りに来たら、LANSA IntegratorによりCSVファイルへ変換してダウンロードする。

 物流業者がデータ取得のために使用するツールは、SSL-VPN ソフトとLANSA User Agent。つまり出荷指示のデータを受け取るために、物流業者は住商モンブランの基幹システムにダイレクトにアクセスするというシステムを敷いている。

 一方、倉庫から商品を出庫したという実績データと、工場から倉庫へ商品を入庫したというデータは、物流業者がCSVファイルにまとめ住商モンブランの基幹システムにアップロードする。するとLANSA Integ ratorによってデータ変換が行われ、入出庫管理プログラムに取り込まれ、Db2 for iに格納される、という仕組みである(図表1)。

 

 住商モンブランが出荷指示データをアップする時刻は、毎日10時30分、13時30分、17時の3回。10時30分のデータは大阪市内向けの当日納品分、13時30分のデータは全国向けの翌日納品分。17時のデータは、追加出荷および返品分となる。

 

LANSA Integratorと
SSL-VPNによるEDIシステム

 同社はこのシステムを15年前に導入している。それ以前は全銀ベーシック手順とJCA手順を使って(ツールはToolbox for IBM i)、30分に1回の割合で同社から物流業者へ出荷指示データを送っていたが、物流業者からすると1つの配送先へのデータがバラバラに送られてくるため、どの時点で当日納品分を締めたらよいか、とくに注文・出荷が集中する毎年3?5月は混乱が起きることがあった。

「しかし、出荷指示データをある時点でまとめて送ろうとすると、データ量が大きくなるため全銀やJCA手順では時間がかかり過ぎる問題がありました。そこで、出荷指示データをある時間を区切ってCSVファイルにまとめることとし、それを当時リリースされたばかりのLANSA Integratorを使ってやり取りする仕組みにしたのが現在のシステムです。セキュリティの担保としてはSSL-VPNを採用し、そのマネージドサービスを提供しているベンダーに運用・管理を委託しました」と話すのは、総務部IT企画課の横田昌宏課長である。

横田 昌宏氏
総務部
IT企画課長

 

 そして15年、システムは同社の屋台骨を支える柱として稼働し続けてきたが、衣料品の市場は今、大きく様変わりしつつある。顧客へのさらなるサービスや、コンプライアンスや高度なセキュリティが必要になっている。またIT・ネットワーク環境もこの15年で大きく変貌し、新しい技術の活用によって新たな経営・事業の目標を追求できる素地が整ってきた。

「当社のEDIシステムは、物流業者が直接、当社の基幹システムにアクセスする点でセキュリティ上の懸念が生じています。また、クライアント側のソフトウェア(SSL-VPN、LANSA User Agent)をバージョンアップするたびに手間がかかり、物流拠点を増やすのにもコストと手間がかかるのが難点です。今やクラウドサービスが台頭し、新しいデータ連携・システム連携の技術も登場しています。将来を展望しつつ、次のEDI基盤として構想したのが次期システムです」と、横田氏は語る。

 

物流拠点の装備は
Webブラウザだけ

 図表2は、10月にサービスインしたばかりのEDIシステムである。

 

 以前との大きな違いは、IBM Cloud上に出荷指示と入出荷実績データの橋渡しをするWebアプリケーションを配置し、住商モンブランがIBM i上の所定のファルダに出荷指示のCSVファイルを置くと、自動的にIBM Cloud上のストレージにマウントされ、物流業者側はそれをWebアプリケーションにアクセスしてダウンロードする仕組みとしたことである。

 また物流業者から住商モンブランへの入出荷実績データの送信は、IBM Cloud上のWebアプリケーションへのアップロードで済む形とした。そして、そのほかのシステムには大きな変更を加えていない。

「この仕組みによって、物流業者から当社の基幹システムへのダイレクトなアクセスはなくなるため、従来からの懸念は完全に払拭されます。また、クライアント側のソフトウェアはWebブラウザだけになるので、物流拠点を増やしていくときもサイトのURLとID・パスワードを渡すだけで済みます。物流業者や協力会社とのデータ交換を弾力的に行える基盤になると期待しています」(横田氏)

 

RESTサービスと
マウント機能の利用

 今回のシステムの技術的なハイライトは、WebアプリケーションとIBM iとの連携にIBM i統合アプリケーション・サーバーのRESTサービスを採用したことと、IBM iとIBM CloudとのCSVファイルのやり取りにIBM iのマウント機能を用いたことである。

 システム構築を支援した福岡情報ビジネスセンターの高橋昌宏氏(常務取締役)は、RESTサービスを採用した理由について、次のように説明する。

「システムを設計した際に1つの課題としたのは、物流業者からWebアプリケーションに入出荷実績データがアップロードされた後、そこからIBM iのジョブをどうキックするかでした。FTPを使えばIBM iのプログラムを動かすことができ、一般的にもよく使われていますが、エラーが起きたときのハンドリングに難があるため、今回のシステムでは選択を躊躇しました」(高橋氏)

高橋 昌宏氏
福岡情報ビジネスセンター
常務取締役

 

 「もう1つの、市販の連携ツールを使わない選択肢としては、IBM i上のIWS(統合Webサービス・サーバー)がサポートし始めたRESTがありました。RESTならばWebアプリケーションからIWSへHTTPSのURLを飛ばすだけでよいので簡単です。しかし、RESTを使ってIBM iのCLをコールするための情報がネットのどこを捜しても見当たらなかったので、IBMの協力を得て、実際に検証しました」(高橋氏)

 「その結果、PCML(プログラムの入出力を定義したXMLデータ)をIFS上に用意し、指定するコードを加えるだけで、WebアプリケーションからIBM iのジョブをキックできることが確認できました。最終的な技術の選択は住商モンブラン様の判断でしたが、新しい技術を使いたいとの意向があり、採用を決めました」(高橋氏)

 もう1つのマウントのほうは、ADDMFSコマンドでIFS上にIBM Cloudのフォルダをマウントすることによって、IBM i上で生成した出荷指示のCSVファイルを所定のフォルダにアップすると、IBM Cloud側のフォルダに格納される仕組みである。

 物流業者側からは、Webアプリケーションにアクセスすると、そこにCSVファイルがあるという見え方になる。またその反対に、物流業者が入出荷実績データをWebアプリケーションにアップロードすると自動的にIBM i上のIFSファイルに格納され、LANSA Composerによってデータ変換が行われDb2 for iへ格納される。

 ただしこの仕組みは、構築段階ではいっこうに機能しなかった。

 「あれこれ試しても、一方からファイルが見えるのに他方からは見えないという現象が起き、どうしてもうまくいきませんでした」と、福岡情報ビジネスセンターの坂本新氏(執行役員)は振り返る。

「原因は、IBM CloudのIPsec VPNサービスと住商モンブラン側のファイアウォールを直接つないだことにあったようで、技術的な相性の問題です。そこで、IBM CloudのGateway Appliance (仮想ルータサービス)を使うことに切り替え、住商モンブランの物理ルータとをIPsec VPNでつないだところ、想定どおりに機能しマウントできました。過去にGateway Appliance (仮想ルータサービス)を利用してシステムを構築した経験があり、技術的な勘が働きました」(坂本氏)

坂本 新氏
福岡情報ビジネスセンター
執行役員

 

自然と貯まる入出荷データが
データ分析の対象になる

 住商モンブランは今回のシステムで、商品のすべての入出荷データがIBM Cloudを通過する仕組みを構築した。「実はそこに、今回のシステム改築のもう1つの狙いがありました」と、横田氏は次のように続ける。

「商品の入出荷データは、すなわちお客様とのお取引データであり、ビジネスの重要な情報が詰まっています。今回のシステムを使い続ければ、そうしたデータが自然とクラウド上に貯まっていくので、それを対象に、同じIBM Cloud上のWatsonなどのサービスを使って高度な分析を行うことを構想しています(図表3)。オンプレミスからクラウドへデータをアップして分析するのはバッチ的な処理になりタイムラグが発生しますが、新しい仕組みであればリアルタイムな分析も可能です。今後は、オンプレミスに残すシステムとクラウドへ上げるシステムを見極め、効率的なハイブリッドシステムに変えていく必要があると考えています。今回のEDIシステムは、その最初の1歩になります」

 

 今回のシステム改築は、データ交換のためのEDIからデータ活用のためのEDIへの転換とも言えそうである。

 

[i Magazine 2019 Winter掲載]