日本CTO協会は12月15日、米国・日本・世界のITエンジニアの給与動向調査をまとめた「世界のエンジニア給与トレンド2020」を発表した。
ITエンジニアを含めたサラリーマンの給与動向調査はさまざまな機関・企業から公表されているが、日本CTO協会が発表した本調査は、ITエンジニアを対象に、トレンドと職種・経験・開発言語の違いによる給与の違いをわかりやすくレポートしているので紹介したい。レポートの著者は、日本CTO協会の齋藤丈氏。
齋藤氏はレポートの中で、「給与は就職、転職、また人事評価においてとても重要な情報であり、個の時代がやってくると言われている中で自分の市場価値を理解するのには必要不可欠である。これはスキルや経験を他の人たちと比較しやすいエンジニアでは尚更ではないだろうか」と述べている。本レポートはそのような問題意識の下で書かれている、と見ることができる
まず、レポートの目次を紹介しよう。
1. Stack Overflow Developer Survey – Salary(給与)
1.1 Stack Overflow Developer Surveyとは
1.2 Stack Overflow 2020 Developer Survey
1.3 2019年度版との比較
2. アメリカの給与トレンド – The Pay Scale Index
3. 日本の給与トレンド – Robert Walters 給与調査2020
4. 給与情報の透明化
4.1 project COMP
4.2 OpenSalary
5. 最後に
6. 引用文献
レポートは最初に、Stack Overflowの「2020 Developer Survey」中の「Salary」の調査データを基に、世界と米国のITエンジニアの役職別の給与を比較している。
それによると、「世界全体とアメリカの給与を比較した時、同じ役職でも2倍近くの給与差」があると言う。
図表は、Stack Overflow「2020 Developer Survey」を元に、日本CTO協会が作成
さらに役職別の給与の違いを分析すると、「Engineering Manager、SREエンジニア、DevOpsエンジニアの順で給与が高い。反対に、デザイナー(Designer)、モバイルデベロッパー(Developer, Mobile)、学術研究者(Academic researcher)は給与が特に低い」と指摘する。
また、給与とプログラミング経験の関連性について、Stack Overflowのデータを基に、次のように分析している。
「給与と経験の関連性を見たとき、その役職の平均プログラミング経験年数が高いほど給与も高いという予想通りの結果が出た。ただし、いくつかの役職は例外となる。特に、SREエンジニア、DevOpsエンジニア、そしてデータエンジニアは同じ水準の経験を必要とする他の役職と比べても高い給与を得ている。この背景には、SREやDevOpsに求められる高い専門性と責任があると考えられる」
図表は、Stack Overflow「2020 Developer Survey」の「Salary」から
レポートはさらに、使用する開発言語によっても給与に差がある、と指摘する。
「ほとんどの言語において経験年数と給与は正の相関関係にあるが、PythonとR言語ユーザーの中には外れ値となる高い給与を受け取っている例も見受けられる。これは二つの言語が高給取りのデータサイエンティストに使用されることが多いためだと考えられる」
図表は、Stack Overflow「2020 Developer Survey」の「Salary」から
日本の給与トレンドについては、外資系企業や日系グローバル企業への転職支援サービスを提供しているロバート・ウォルターズ(Robert Walters)社の給与調査を紹介し、「Stack Overflowのアンケートによると世界的に給与は減少していたが、日本ではアメリカと同じくエンジニアの年俸が上昇していくのではないかと考えられる」と、見解を述べている。
●銀行・証券・投信企業の職種別給与(推定)
●オンライン企業の職種別給与(推定)
●ベンダー・コンサルティングの職種別給与(推定)
図表は、いずれもロバート・ウォルターズ「給与調査 2020」から
レポートでは「給与情報の透明化」と題して、「project COMP」と「OpenSalary」の2つの取り組みを紹介している。
project COMPは、「給与のデータベースをクラウドソーシングでつくり、自分の給与順位(位置)と自身のスキルや経験の市場価値を確認できるサービス」(project COMPのページより)を目指して株式会社Fieldriverによって立ち上げられたプロジェクト。一方のOpenSalaryは、メルカリのドリュー・テリー(Drew Terry)氏によって推進されているプロジェクトである。
レポートは、「現段階では両サービスにおいて回答者の多い企業に偏りがあるものの、今後回答者が増えていけば情報の精度も高まると思われる。たとえ転職活動中でなくとも、自身のキャリアプランを考えるきっかけとしてproject COMPやOpenSalaryのようなサービスを利用してみてはどうだろうか」と推奨している。
図表は、project COMPのサイトから
図表は、OpenSalaryのサイトから、編集部で編集・加工
なお、本レポートとは別に、転職サービスのdodaが12月7日に「平均年収ランキング(平均年収/生涯賃金)」を発表している。「2019年9月~2020年8月の1年間に転職サイトdodaのエージェントサービスに登録した人のうち、正社員として働いている約40万人の平均年収(生涯賃金)データを、職種別・業種別・年齢別・都道府県別とさまざまな切り口で比較してランキング」したもので、IT系プロジェクト・マネージャーへの転職者の平均年収は664万円という。
出典・資料
日本CTO協会「世界のエンジニア給与トレンド2020」
https://cto-a.org/news/2020/12/15/4170/
Stack Overflow「2020 Developer Survey」の「Salary」
https://insights.stackoverflow.com/survey/2020#salary
Stack Overflow「2020 Developer Survey」
https://insights.stackoverflow.com/survey/
ロバート・ウォルターズ「給与調査 2020」
https://www.robertwalters.co.jp/about-us/news/2020-01.html
project COMP
https://project-comp.com/
OpenSalary
https://opensalary.jp/
doda「平均年収ランキング(平均年収/生涯賃金)」
https://doda.jp/guide/heikin/
[i Magazine・IS magazine]