コスト削減に偏ることなく
多様なストレージニーズをもつ
企業活動には必ずデータがついて回る。そしてそのデータは多種多様であり、売上、在庫、個人情報などとさまざまある。近年はそれらのデータを業務の効率化や売上増、新規事業の創出などに活用する動きが活発で、そのために複製されるデータが増加している。また業務データとは別に、生産機械や商品などに取り付けたセンサーから吐き出されるデータもあり、増加の一途をたどっている。さらに、ソーシャル(SNS)のデータや政府・自治体が公開するオープンデータなどを利用する動きも進みつつある。
企業は、多種多様で膨大な量のデータを企業内のどこかに、あるいはアクセス可能な企業外のしかるべき場所に配置する必要がある。データの配置・保管・運用にはコストと工数がかかるので、どこにどう、どれだけ置くかは非常に重要である。また頻繁に利用するデータは、すばやくアクセスし取り出せることが要件となり、さらに、必要なときにいつでもアクセスし利用できるよう、データの重要度に応じたストレージ装置の信頼性や可用性の担保も不可欠になる(図表1)。
データの活用がビジネスに大きく影響する現在、データの配置や処理性能、コスト、運用管理性など企業が考慮すべき事項は多岐にわたり、その選択はビジネスのパフォーマンス、ひいては企業の競争力を左右すると言えるだろう。
図表2は、日本のユーザーがストレージ(インフラ)の支出において何を重視するかをまとめたIDC Japanの調査結果である。
これを見ると、「非常に重要」「重要」を合わせたトップ3は、「ストレージインフラコストの削減」(58.3%)、「運用管理の効率化(標準化、自動化など)」(57.9%)、「ストレージ運用管理コストの削減」(57.3%)の順番だが、7位の「ストレージインフラの可用性/信頼性向上」(50.6%)、8位「災害対策の強化」(50.4%)も50%を超えており、9位「パブリッククラウド環境の推進」(36.0%)、10位「インフラ刷新のための新テクノロジーの導入」(34.9%)以外はどれも重要項目という結果である。
これについてIDC Japanの森山正秋氏は、「項目ごとの回答率に大きな差がなかったのは国内企業がストレージインフラ支出において重視する項目がコスト削減などの特定の項目に偏ることなく、その企業が抱えている課題や目標に応じて多様化していることを示している」と指摘する。
HDDからフラッシュへ
主役交代に拍車がかかる
図表3は、ストレージの支出に影響を与えるITプロジェクトについて尋ねた調査結果である。
これよると、「2018年度に大きな影響を与える」のトップ3は、「データベース/アプリケーションのパフォーマンス向上」(31.7%)、「バックアップ/リカバリーの強化」(22.0%)、「サーバー仮想化/デスクトップ仮想化領域の拡大(21.1%)の順。「2020年度までに大きな影響を与える」では、「ビッグデータ/アナリティクスの活用」(27.0%)、「IoT関連プロジェクトの拡大」(23.0%)、「大容量データやコンテンツのアーカイブ」(22.0%)の順。「2021年度以降で大きな影響を与える」では、「AI(人工知能)の活用」(21.3%)、「ハイブリッドクラウドの活用」(15.7%)、「大容量データやコンテンツのアーカイブ」(15.0%)の順である。
これを見て気づくのは、わずか10項目でありながら重複は1項目しかなく、年度を追うごとにストレージ支出に影響する項目が変化していくことである。これも「多様化」を示す調査結果だろう。
ここで、日本の外付型エンタープライズストレージシステム市場の推移を見ておこう。図表4(年別)を見てわかるように、年別では増加傾向にある(2019年は対前年比10.8%減)。
ただし、その内訳を見ると、依然としてHDDの規模は大きいものの、HDDとハイブリッド型(SSD・HDD)が減少しオール・フラッシュ型が拡大するという、主役の交代が急速に進んでいる。2017年のオール・フラッシュ型は前年比88.9%増(318億3800万円)、ハイブリッド型は11.6%減(553億3700万円)、HDDは17.2%減(858億5000万円)という結果である。オール・フラッシュ型は高速・高機能というHDDをしのぐ特徴を備えるが、これに加えて容量単価でHDDよりも安価な製品が登場し始め、主役の交代に拍車をかけている。
多様なストレージ製品
多様な選択肢
図表2・図表3の「多様化」に呼応して、市場にはさまざまなストレージ製品が登場している(図表4)。
このなかで、2018年に顕著に採用が進んだのがハイパーコンバージド(HCI)製品である。HCIはサーバー、ストレージ、ネットワークを統合した製品でとくにストレージ製品をうたうものではないが、「ストレージの観点からの採用が増えています」と、JBCCの車田昌史氏(プラットフォーム・ソリューション事業部 ソリューション技術部 部長)は指摘する。
HCIは、SDS(Software Defined Storage)によりデータの自動再配置や階層化、圧縮・重複排除、障害時の自己修復などが可能で、SANストレージのような設計ポリシーが不要なため、運用をシンプルにできるメリットがある。「ストレージ運用管理コストの削減」に応え得るソリューションの1つであるのだ。
またオール・フラッシュ製品も、IBM FlashSystem 9100(2018年7月発表)のように、ミッドレンジの位置づけながらハイエンド製品の先進機能を適用し多様な目的に適う実装を行う製品が登場している。そしてストレージベンダー各社からも特徴のあるオール・フラッシュ製品の投入が続いている。
ビジネスに直結
ストレージの選択が重要に
図表5は、ストレージのニーズに対する解決策の考え方の一例である。
たとえば、企業のなかには業務ごとに導入された、導入の時期もベンダーも運用方法も異なるストレージが多数あるだろう。多くの企業がその運用工数増加の課題を抱えている。この運用の全体をシンプルに効率化するには、ストレージ仮想化の導入が1つのソリューションになり得る。ストレージ仮想化の機能をもつ製品を中核にして、複数のストレージ装置をストレージ仮想化装置の一部と見なして統合し(単一ストレージ化)、ストレージ運用のワークロードを簡素化する考え方である。
ストレージ仮想化自体はけっして新しい技術ではないが、それでもストレージ仮想化によって解決できる課題が多く残されている。多様化するストレージと、その多様化を個々に把握する情報・知見のキャッチアップが、より強く求められるということだろう。
ストレージの導入は今後さらにビジネス上の戦略に直結していく。ストレージ製品の選択が重要になりつつある。
[IS magazine No.22(2019年1月)掲載、Web掲載にあたり情報をアップデートしました(2020年10月30日)]