世界最大の建設機械メーカーである米キャタピラー社、およびその日本法人であるキャタピラージャパン合同会社の九州地区特約販売店。同社の建設機械は九州全域で約2万台を超え、高速道路やダム建設など九州のビッグプロジェクトに貢献している。GPS測量機やドローン、3Dデータの活用、クラウドでのリアルタイムな一元管理など、現在はIoT化が進展している。2017年10月に、JR九州の100%子会社となった。
スマートデバイスのように簡単に
業務システムを使いたい
キャタピラー九州はシステム/38時代からのユーザーで、長年にわたりIBM iで基幹システムを運用している。
システムの開発・運用を担うのは、加藤玲課長を含む情報システム課(業務本部 業務部)の3名のメンバーである。2006年には、昔ながらの5250画面を、ツールを使うことなく独自にGUI化するなど、社内のさまざまな要望に対して内製主義で応えてきた。
スマートデバイスの普及に伴い、2010年ころからは営業マンを中心にiPADを導入している。外出先でのメールチェックやメール送信、写真撮影など確かに便利になったものの、モバイルならではのインパクトのある利用方法は実現できていない状況にあった。
「誰でも簡単に操作できるスマートデバイスのイメージから、『こんな風にピッと打って、パッと出てくる便利な業務システムはないのか』という声が経営層や社員から寄せられるようになりました」と語る加藤氏。情報システム課はその声に応えようと、スマートデバイスで業務を遂行する本格的なネイティブアプリの開発を検討することになった。
IBM i関連の情報を集めるなか、RPGを使ってネイティブアプリが作成できると評判の「LongRange」の存在を知る。他のツールと比較して、同社では次の点を評価した。まずiPadだけでなく、AndroidやWindowsタブレットにも対応可能であること。次にObjective-CなどOS固有のスキルを習得する必要がない。RPGで開発できるので難易度が低く、内製で対応できる。そして導入コストが高額ではないことである。
「当社では今後のモバイル方針をまだ確定していません。現在はiPADを使用していますが、業務への適合性を考えると、今後はWindowsタブレットへ移行する可能性もあります。将来を考えると、多様なデバイスに対応できる柔軟性・汎用性が何より求められました」(加藤氏)
2016年12月に「LongRange」の導入を決定。情報システム課の3名がトレーニングを受講し、そのなかでJavaや.NETによるWebアプリケーションの開発経験があった加藤氏がまず、開発を担当することになった。
現場アプリケーションを
「LongRange」で開発
最初に開発したのは、キャタピラーの不具合情報を共有するアプリケーションである。同社では製品の初期不良や発生頻度の多い不具合などについて、メーカーである米キャタピラー社にレポートしている。このレポートにより有償・無償の修理内容を判断したり、今後の品質向上に役立てている。
今まではExcelのフォーマットでレポートを作成し、故障箇所をデジタルカメラで撮影して、その写真データを貼り込む。それをPDFに変換して、米キャタピラー社へレポートとして提出していた(実際にはさらに、別部門が英訳して提出する)。
「LongRange」で開発されたネイティブアプリは、故障や不具合の発生した建設現場での使用を前提にしている。最初の画面で担当者や部署、不具合の件名や区分などを入力(バックグラウンドでIBM iの基幹DBからデータを受信している)。次にiPadを使って製品に添付されたQRコードをスキャンし、機種やシリアル番号など固有情報を自動入力する。さらにiPadで故障箇所を撮影すると、その写真データをレポートに貼り込む。終了ボタンを押すと、データがIBM i側へ送信され、スプールデータからPDFを生成する仕組みである(図表1、図表2)。
ランサ・ジャパンによる3日間の研修を受け、2017年6月に開発がスタートした。加藤氏が管理職であるのに加え、2017年10月にJR九州が同社の全株式を取得して子会社化したことから、それに伴う業務が発生し、開発作業が途中で中断した。そのためアプリケーションの完成はかなり遅れて、2018年4月となった。
「他の業務に忙殺されて、思うように作業が進まないのに加え、初めての開発だったので、戸惑うことも多かったです。しかしランサ・ジャパンから4日間のオンサイト技術サポートを受け、何かに迷うたびにホットラインのサポートを受けるなど十分な支援体制があったので、実質的な開発期間は1?2カ月でした」(加藤氏)
同社が次に「LongRange」で開発したのは、レンタル機械の入出庫管理システムである。製品をレンタルする場合、返却の際に数量や損傷の有無などを確認するため、入出庫時に証書を残す必要がある。現在は紙ベースの証書でやり取りしているが、これをiPadで実現しようというわけだ。
最初の画面で、車両を選択する(IBM iの基幹DBからデータを表示)。次に点検項目と現在の状態を入力。そして車両を決められた角度から撮影し(傷がある場合は、その部分をフォーカス)、その写真データを貼り込む。顧客はその場で貸出情報を確認したうえで、電子署名する。入力が完了したら、データはIBM iへ送信され、PDFを作成。顧客へメール送信、もしくは紙で受け渡す仕組みである。
顧客の目の前で撮影し、システムに登録するのでコンセンサスを取りやすい。またその場で署名し書類をメール送信するので、トラブルを未然に防ぐ効果もある。
開発期間は2018年6?8月。現在は短期レンタルを多く手掛ける熊本支店でテスト運用中である。
同社ではこのあと、中古車車両の販売履歴やメンテナンス履歴を照会するアプリケーションを開発し、すでに実装済み。今後は訪問日報など、複数の開発を予定している。情報システム課のほかの課員もスキルを習得し、自在に「LongRange」での開発が担えるように、現在教育中である。
「長年にわたりIBM iでの開発を重ね、ほとんどの業務領域をシステム化したと思っていましたが、デバイスを変えるだけで、こんなにもITを活用できる業務があることを発見し、新鮮な驚きを感じています」(加藤氏)
メーカーである米キャタピラー社は現在、出荷車両へのQRコード添付や、WebアプリケーションをAPIとして取引先に公開することを検討している。実現すれば、同社のモバイルアプリケーションもそれに連携して、さらに拡大することになるだろう。
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COMPANY PROFILE
キャタピラー九州株式会社
本 社:福岡県筑紫野市
設 立:1965年
資本金:1億円
事業内容:米キャタピラー社の建設機械、道路機械、発電機・船舶用エンジン・産業用エンジン、発電機・環境リサイクル機器などの販売、新車・中古車の販売とレンタル、部品販売・修理販売・建設機械の教習など
https://www.cat-kyushu.co.jp/
[i Magazine 2018 Winter(2018年11月)掲載]