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ご存じですか? 板垣清美◎ メインフレーム・マイグレーション再考  ~第1回◎「青天の霹靂」はいつでも起こる

 

青く晴れ渡った空に雷鳴が突然とどろくことをもじって、予期しないことが突発的に起こることを「青天の霹靂」と言いますが、使用中のメインフレームの生産中止を突如として通告されたユーザーは、皆さん一様に「青天の霹靂でした」と口にします。

振り返ると、日本のメインフレーム市場の2010年代は「青天の霹靂」の連続だったのではないかと思います。日本の基幹産業を支えてきた名だたるメインフレームの多くが、唐突に「生産中止」を宣言し、市場から退場していったからです。ざっと挙げても、VOSK、VOS1、VOS3(日立)、ASP(富士通)、ACOS6、AVX(NEC)といった、かつての名機のOSの名前がすぐに浮かんできます(VOS3やASPは他社機/クラウド上で継続利用可能)。

しかし、突然「生産中止」を通告されたユーザーは、たまったものではありません。メインフレーム・ユーザーの大半は後継機への移行を含めて、5年先、10年先までの利用を念頭に置いているのが普通ですから、いきなり将来を絶たれたのと同然です。「お先真っ暗になった」「途方に暮れた」と話すユーザーは決して少なくありません。

見方を変えると、日本のメインフレーム市場の2010年代は、「いつ生産中止になるのか」「撤退はあるのか」という疑心暗鬼や不安が膨らんでいった10年間と見ることもできます。

そうした不安があるので、私がお会いしたユーザーなどは、メインフレームの更新時にメーカーから「撤退は行わない」という念書をわざわざ取ったほどですが、新しいマシンへ切り替えた後にほどなくして「撤退」を通告されるという苦い経験をしています。

これはもう良し悪しではありません。日本のメインフレーム市場はそういうドライでドラスティックな時代に入っている、ということです。もちろん国産メインフレーマーとIBMは、主力とする市場が日本か世界かという規模だけを見ても分けて考えるべきですが、メインフレームを捉える際の欠かせない視点でしょう。

本誌の読者は、生産中止の通告なら代替案の提示もあるはずだ、と思うかもしれません。確かに、代替案がある場合もあります。しかしその代替案は、使用してきたメインフレームのOSをWindows上でエミュレートして稼働させるといった、基幹システムを長期にわたって利用する基盤となり得るものではありません。

ユーザーは結局、基幹システムをスクラッチで再構築するか、ERPへ載せ換えるか、別の基盤へマイグレーションするか、の三者択一を迫られます。この最適解は、使用中のマシンの保守終了までの猶予期間、現行システムの把握状況、その規模と内容(プログラム本数、データベースの種類・数)、人員のスキル、予算などを検討項目として、それぞれの重みづけと判断によって決まってきます。

しかし、生産中止の通告を受けた当初は不透明な部分が多く、ユーザーはお先真っ暗な状況です。そして、ある決断をして一歩を踏み出しても、先へ進むと実現困難が見え始め、振り出しに戻るユーザーも少なくありません。基幹システムの不透明さは、ユーザーが想像する以上に濃く深いのです。

メインフレームの次を検討するにあたって、ITベンダーを選択し直すことも多いでしょう。その評価のポイントはいくつかありますが、1つ確実に言えるのは、メインフレーム上の全資産を期限内に100%安全確実に移行しきる計画が描けているか、ユーザーの基幹システムの今後を、ITベンダーが10年以上先まで詳細かつ具体的に描けているか、という点です。to beのあるべき姿と、そこに到達するまでの納得のいく計画案・工程表が描けているか。

まだまだお伝えしたいことがありますが、今回はこのへんで。

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著者|板垣 清美氏
JBCC株式会社
さらばレガシー移行センター センター長

バロース、日本IBMを経て2001年にJBCC入社。東日本営業推進本部長、理事などを歴任後、現職。IBM時代にメインフレームから他のプラットフォームへ移行させるマイグレーション手法を確立し、JBCC入社後だけでも100社以上の移行実績をもつ。メインフレーム・マイグレーション分野の第一人者。

[IS magazine No.22(2019年1月)掲載]

 

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