組織・個人を見つめる人材育成改革へ
キャリアパスを定義し、個人の
スキルレベル評価を基に人材戦略を推進
「人材を創る」ことは
「組織風土」の醸成につながる
ソニー生命のITデジタル戦略本部に「IS教育課」が新設されたのは、2014年8月にシステム部門改革がスタートしてから約1年後の2015年10月である。
課創設の狙いについて、IS教育課の斉藤裕美統括課長(ITデジタル戦略本部 IT GRC統括部 担当部長を兼務)は、次のように説明する。
「企業が事業戦略の実現へ向けてITの活用を進めるとき、多様なスキルと豊富な経験をもつIT人材が必要になります。当社ではそのために研修プログラムやOJT制度を設けていましたが、はかばかしい成果を上げられずにきました。そのことを振り返って考えると、OJT中心で担当業務ができることに重きを置きすぎていたことと、IT人材の育成が仕事として認識されず、開発や運用業務の二の次、三の次になっていたとの反省に至ります。そこで、『実務の遂行』を主目的とするのではなく、3年・5年といった単位で「人材像」と具体的な成長ステップを明確化し、『人材を創る』ことを組織の目的としていくことにしました。その推進役として位置づけたのがIS教育課です。『人材を創る』ことは、『組織風土』を創ることにつながっていくという強い想いが込められています」
同社のIT人材戦略の全体像は、図表1のように描かれている。まず部門全体(本部・各部)の戦略があり、その実現のために必要な要員の種別と各々のスキルセットが定義され、あわせて中長期の要員計画が策定される。そして個々の社員がもつスキルと求められる要員像とのギャップを評価して、社員個々と部門全体の育成計画を立案。そのなかで強化すべき部分を教育プログラムによって補うという体系である。また、実務のなかで経験・スキルをどのように発揮・蓄積しているかを測るプログラムも実施し、育成計画にフィードバックする仕組みも設けている。
図表2は、IT部員として入社した社員がどのようなキャリアパスを歩むのかを定義したものである。新人はスタッフ、リーダーを経て、上位のマネージャーへと進む。
そして、システム開発において要求されるスキルとその内容を定義したのが図表3である。6分類・11項目から成り、個々のスキルの概要と、レベル1〜5のレベルごとに内容が詳述されている。
開発に関する社員のスキルレベルの評価は、これを用いて実施する。点数制で評価し(全項目の満点は50点)、新人とスタッフの評価は課長が、リーダーに対する評価は課長と部長が担当する。その評価結果は社員本人に開示し、それを基に評価者と社員が面談を行い、社員個々の目標設定とそれに向けた育成計画を立てるという流れである。
スキルレベルの評価は、2017年4月にスタートした。スタート前は、「評価内容に不満をもつスタッフから反発を受けるのではないか、という懸念の声が評価担当者の間で上がりました」と、斉藤氏は振り返る。
「しかし実際に蓋を開けてみると、むしろ好意的に受け止められたようで、2017年度の社員意識調査では育成に関連する項目は高い評価結果になりました。スキルレベル評価プログラムは今年(2019年)4月に3年目に入りましたが、評価を基に目標を設定し、強化すべき点を研修プログラムを使って強化するというサイクルが回り始めたと感じています」(斉藤氏)
「ITプロフェッショナル フレームワーク」を策定
一方、リーダー以上の中堅・ベテラン層に対しては、「ITプロフェッショナル フレームワーク」と呼ぶビジョンを策定した。一定の経験とスキルを積んだ中堅・ベテラン社員が、キャリアパスとして次に何を目指すべきかを明確にしたもので、5種類のフレームワークと10種類のプロフェッショナルが定義されている(図表4)。
「ITのプロフェッショナルならば、開発ならPMBOK、運用ならITILという世界標準のフレームワークを体得していることは大前提ですが、キャリアとしてはゼネラリストよりも個々の分野で高い専門性を発揮できるスペシャリストのほうこそ重要、と考えた結果がITプロフェッショナル フレームワークです」と、斉藤氏は策定の経緯に触れる。
リーダー以上の中堅・ベテラン層は、各自が目指すプロフェッショナルを“宣言”したうえで受験または受講をし、プロフェッショナルとしての資格を満たすと、役割やタスクをアサインされる仕組みだ。また、受講費用の会社負担や学習状況の確認・サポート体制も充実している。
同社は現在、さらなる取り組みとして、DXに対応できるイノベーション人材の育成を開始している。 「これまでの人材育成は、経験値を積み上げることを目標に進められてきましたが、DXのような新しい発想や取り組みに対応できる人材を育成するには、これまでの枠組みに捕らわれない新しい発想のプログラムが必要です。それはまさに、ソニーのDNAを受け継ぐ、失敗を恐れず挑戦し続ける自由闊達な人材の育成とも言えます。そうした人材を寛容に受け入れる組織風土を、イノベーション人材の育成を通して作り上げていきたいと思っています」と、斉藤氏は述べる。
[IS magazine No.25(2019年9月)掲載]
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PART 4 運用改善専任チームの結成と「全運用担当者との面談」という手法
PART 5 業務の詳細な「手順化」により、コスト削減・開発スピード向上を目指す